既存の活動を見直すということ
今回の『寺院デザイン通信』では、寺院デザインが行っている
「既存の活動を見直す」プログラム〈基本コンサルティング〉について解説します。
基本コンサルティングについて、さらに詳しく知りたい方はこちらをクリックしてください
お寺は葬送や檀家制度から脱却すべきなのか?
近年仏教界では、お寺を活性化していこうという動きが、顕著になりつつあります。
特に、何らかの新しいプロジェクトをたちあげて、お寺の新たな価値を創造していこうというこ動きが活発になってきました。
そうした活動は、話題性もあり、メディアやSNSなどでも頻繁に取り上げられるようになっています。
一方、従来の寺院活動については、賞味期限が過ぎたかのごとく語られることが増えてきました。
「葬送に依存していてはダメ。そこから脱却しないと」
「檀家制度はもうダメ。そこから脱却しないと」
そう考えているからこそ、多くの僧侶が新しい取り組みを始めようとしているのだと思います。
寺院活動をめぐる社会とのズレ
しかし私には、葬送も檀家制度も、まだまだ役割があるようにしか見えません。
むしろ、今後も──少なくとも100年は──、お寺の活動の柱であり続けると思っています。
葬送や檀家制度にひずみが生じているのは確かです。
しかしそれは、葬送や檀家制度そのものがダメになったのではなく、社会の変化に対応しきれていないだけです。
お寺の活動というものは、時代時代にあわせて変化してきました。
特に、葬送や檀家制度は、社会のあり方に順応するため、何度も大きく変化しました。
葬送や檀家制度というのは、家制度や地域社会とも深い関わりがあります。
ここ数十年でその家制度や地域社会が大きく変化してきたのは、ご存じの通りです。昭和の終わりの頃に既に変化が始まっていましたが、平成以降の変化は加速度的でした。
社会の変化はうすうす感じていたのだと思いますが、気づいた時には、かなり大きなズレとなって表面化したというのが現実です。
今では、かなり真面目に、檀家の立場に立とうと努力しているお寺ですら、どうにもならない状況になりつつあります。
もちろんお寺はちゃんとやっています。
しかし、お寺の仕組み、特に葬送と檀家制度に制度疲労がおきていて、それが社会との間にズレを生じているのです。
そもそもズレは修正すればいいのですが、仏教界は「変化」することに消極的なところがあります。
またお寺の中にいると、なかなかそのズレに気づきにくいのが現実です。
外部から見ると、「それは、ちょっとまずいな」ということでも、仏教界内部では当たり前のこととして認識されていることも少なくありません。
ところがその当たり前のことが、檀家や地域の人にとって大きな違和感のもとになっていることが多いのです。
しかもほとんどの檀家は、違和感があっても、それを僧侶には伝えません。
ズレが埋まらない原因はそこにあるのです。
つまり、社会とのズレが生じているのは、個々の僧侶の資質の問題ではなく、お寺をめぐる仕組みに無理が生じていることに原因があるのだということです。
逆に言うと、社会にあわせて活動を再構築していけば、いくらでも活動の再生が可能だということです。
いくら新しいプロジェクトを進めても、基本の活動に歪みがあったら、お寺の活動は確実に沈んでいきます。
私には、葬送も檀家制度も、求められているのに、お寺の側が頑なになって、拒絶しているように見えます。
まずは、そうした固定観念から自由になって、お寺の既存の活動を見直し、再構築していくことが必要なのだと思います。
寺院デザインが「既存の活動を見直す」ことに力を入れているのは、こうした理由によります。
新しい活動を始めることより、「既存の活動を見直す」ことにこだわるわけ
弊社は、今年、設立して16年目を迎えました。
コンサルティングをさせていただいたお寺は200を超えていますが、そのうち約3分の1が「既存の活動を見直す」ことから始めさせていただきました。
住職、副住職、寺族の方々から、現状について何度も話を聞き、何が問題なのか、どう改善していけばいいのかを、一緒に考えてきました。
時には、厳しいことを言わせていただくこともあります。
というのも、何も問題の無いお寺は存在しないからです。
檀家の気持ちを理解し、一般の人の立場にたって考えるということは、簡単なことではありません。
むしろ、それができていないほうが普通です。だから、外部の視点が必要なのです。
ただ、問題が見つかるということは、改善の余地があるということを意味します。
お寺にはまだまだ発展の可能性があるということです。
問題点を改善し、活動の再構築を進めるということは、地味な作業です。
しかし、10年後、20年後のお寺を考えた時、こうした基本的な活動の再構築が大切なのは明らかです。
今も昔もこれからも、葬送や檀家制度がお寺の基盤であることは間違い無いからです。
だからこそ、葬送と檀家制度を再点検し、再構築することが重要なのだと考えています。
「既存の活動を見直す」コンサルティングの紹介
寺院デザインの「既存の活動を見直す」コンサルティングは、次のようなステップで行っています。
【step1】現在の活動の洗い出し・リストアップ
現在、お寺で行われている活動をリストアップし、〈檀家制度〉〈葬儀〉〈法事〉〈お墓〉〈行事〉〈コミュニケーション・情報〉などにカテゴリー分けします。
さらに リストアップされた項目ごとに、お寺として行っている作業などを細分化し、活動全体を俯瞰できるようにします。
既存の活動のリストアップ例
■檀家
檀家との関係性(権利義務など)の再構築
檀家への情報提供(お寺のトリセツ)
檀家の代替わりへの対応
遠方に住む檀家への対応
護持会(檀信徒)規則
檀家情報のアーカイブ(記録と参照の仕組み)
■葬儀・法事
事前の打ち合わせ
儀式の進行
儀式の説明
葬儀社との連携
案内方法(法事)
お布施のあり方
葬儀後の説明
■お墓
承継者のいない人への対応
空き区画の募集
永代供養墓などの計画・募集
墓地使用規約
■情報発信
寺報
ホームページ・SNS
パンフレット類
■行事
プログラム
スタッフ
集客
■その他
【step2】活動内容のヒアリング
リストアップされた項目ごとに、弊社からヒアリングを行い、その詳細を確認・記録します。
ヒアリングは、住職だけでなく、活動に関わっている全ての人、つまり副住職、寺族などからも行います。
【step3】分析・評価
ヒアリングされた内容を分析、問題点を抽出します。また活動全体の評価も行います。
【step4】再ヒアリング(省略の場合あり)
抽出された問題点を中心に、再度、ヒアリングを行い、その問題点の原因等を確認します。
【step5】再分析・再評価(省略の場合あり)
再度行ったヒアリングに基づいて再分析・再評価を行います。
【step6】対策(改善プラン)策定
再分析・再評価に基づいて、問題解決の方法を考えます。現実的に実行可能なプランにするため、住職・副住職・寺族と話し合いをつづけながら、具体的なプランにしていきます。
コンサルティングでは、月1回のミーティング(コンサルティング)で上記のプロセスをひとつひとつ進んでいきます。期間はお寺によって異なりますが、12ヶ月から24ヶ月の間というのが一般的です。
これまで色々なお寺のコンサルティングを行ってきて、つくづく感じるのは、僧侶というのは、自身が置かれている状況に気づきにくい環境にいるということです。
檀家は住職に本音を言いませんし、関連業者はお寺に気を遣ってばかりです。周囲に聞いてもいいことしか言ってくれません。
だからこそ、こうしたコンサルティングのプログラムの意味があるのだと思います。
自坊が置かれた状況を正しく認識し、檀家や社会との関係を豊かなものにしていくためのコンサルティングだと考えていただければと思います。
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以上